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今いる場所を
居心地よく変えていく、
親友が教えてくれた
もうひとつの働き方

ふみちゃんと出会ったのは、もうずいぶん昔、高校3年生の頃だ。クラスが一緒になって仲良くなった私たちは、別々の大学に進んだ後も、月に一度は顔を合わせておしゃべりをし、一緒に旅行や合コンに行き、新しい彼氏ができれば紹介し合った。

そして、まるでしめし合わせたみたいに、同じ時期に結婚し、同じ時期に子どもを産んだ。私たちはいつも、似たような環境や悩みを抱え、それをお互いに相談しながら、もうずっと長いこと友人同士でいる。

私たちが大学を卒業したのは、就職氷河期と呼ばれている頃。就職活動はそれはもう大変だったけれど、なんとかそれぞれ内定をもらい、私は運送会社の事務として、ふみちゃんはオフィス用品メーカーの営業として働きはじめた。

おっとりとしたふみちゃんが営業職に就いたことに私は驚いたし、ちょっと心配にもなった。まだ社会を知らないその時の私にとって、営業というのは、元気で明るくてノリのいい、「ザ・体育会系!」みたいな人がやるものだと思っていたから。

でも、私の心配をよそに、働きはじめたふみちゃんは生き生きとして楽しそうだった。誰に対しても気を配りながら誠実に対応する彼女は、確実に周りの信頼を集めていた。

ノルマだとかお客様からのクレームだとか、そうした大変なことにぶつかりながらも、ふみちゃんはいつもコツコツと仕事をこなし、だんだんと後輩の指導や大きなプロジェクトを任せられるようになっていった。

一方で私は、新卒で入社した会社を経営不振のため1年で退職し、ブラック気味だった次の会社もすぐに辞め、社会人2年目にして2度の転職を経験した。3社目でようやく落ち着いて仕事ができるようになったものの、1つの会社で着実にキャリアを積み上げているふみちゃんは、私の目にまぶしく映った。

だけれど、20代も終わりに近づく頃、ふみちゃんは時々仕事の悩みをこぼすようになった。「営業の仕事は嫌いじゃないけど、ノルマはどんどん増えていくし、一日中外を歩き回るのは体力的にもきつくなってきた」と。「だったら他の仕事を考えてみてもいいんじゃない。転職するなら、相談にのるよ」と私が言うと、ふみちゃんは「そうだね」と返事しながらも、「会社は嫌いじゃないし、人間関係も悪くないし、もう少しここでがんばってみるよ」と答えた。

そして、30歳を過ぎてしばらくして、ふみちゃんは仕事を変えた。といっても、転職をしたわけではなく、同じ会社の中で、営業のサポートを担当するようになったのだ。社内に元々そうしたポジションがあったわけではなく、彼女が自ら新たな部署を立ち上げたのだという。

「ずっと営業として働くうちに、サポートしてくれる人が必要だなと思うようになったんだ」と、ふみちゃんは言った。

「社内で資料をつくったり、情報を整理したり、お客さんの連絡を受けたり。そういうことを引き受けてくれる人たちがいたら助かると、何年か前に会社に提案したことがあったけれど、その時は人手もないし、できそうな人もいなくて実現しなかったの。でも、今の私なら営業のことはだいたいわかってるからスムーズにサポートできるし、ちょうど内勤の仕事がいいなと考えていたから、だったら自分でやってみようって、改めて会社に提案したんだ」

その話を聞いて、私はとても驚いた。そんな方法もあるんだと、心の底から感心した。

私は、今いる場所が自分に合わないなら、他の場所を探すしかないと思っていた。だから、2度の転職の後も、結婚による転居で職場が遠くなれば、またちがう会社を探したし、他にやりたいことができた時には、やっぱり会社を辞め、資格をとって転職をした。最初の会社を辞めて以来、ずっとそんな風に、私は次の場所へ次の場所へと動き続けてきた。

だから実のところ、不満や不安を持ちつつ仕事を辞めないふみちゃんに、「ちょっと環境を変えてみてもいいのに」なんて思ったこともあった。そのまま同じ場所にいても何も変わらないのにな、と。

だけど、それは間違いだった。場所を変えなくても、場所を変えないからこそ、できることがある。彼女は、ずっと同じ会社に勤める中で、丁寧に人間関係を築き、確実に信頼を積み上げ、そうやって今いる場所を自分に合うようにつくりあげたのだ。

「すごいなあ。私にはとてもできないよ」

私がそう言うと、ふみちゃんは驚いた顔をして「そっちだってすごいよ。自分でどんどん動いて、道を切り開いてさ。私にはできないよ。でも、それでいいんだと思う。それぞれ自分に合ったやり方で進んでいけばいいんだよ」と、いつも通りのふわりとした笑顔を浮かべた。

それからも、私たちはそれぞれのやり方で働き続けた。出産後、体調をくずしたふみちゃんは、会社に在宅勤務ができないだろうかと申し出た。タイミングよく、会社もさまざまな働き方を取り入れようと考えていたところだったらしく、ふみちゃんは社内で初めての在宅勤務者になった。そして、彼女がしっかりと実績をつくったおかげで、希望者は誰でも在宅勤務ができるように、今年の春から制度が整えられたそうだ。

私はというと、妊娠時に一度仕事を辞め、産後はまたパートタイマーの仕事をはじめ、それから何だかんだと動いた末に、今はこうしてフリーで文章を書く仕事をしている。

日々はそれなりに忙しいけれど、私たちは、今も時間を見つけてはおしゃべりをする。懐かしい思い出や、家族のこと、子育てのこと、それから仕事のこと。いくら話しても話題は尽きることがない。きっとこれからも、私はそうやって、ふみちゃんに愚痴ったり、励ましたり、ただ話したりを繰り返して、暮らしていくのだろう。

私は飽きっぽいところがあるから、また仕事を変えたくなったり、時にはちょっと休みたくなったりするかもしれない。その時々で仕事への考え方が変わることは当たり前だし、身をもって経験してもいる。

だけど、今の私は、せっかくたどり着いた大好きな書く仕事を、できたらずっと続けていきたいと願っている。だから、ふいに投げ出したりしてしまわないよう、ふみちゃんが教えてくれた「今いる場所を飛び出さなくたって、自分の変化に合わせて、その場所の居心地を整えていくことができる」ってことを、ちゃんと覚えておかなくちゃと思う。

そして、今までと同じように、ふみちゃんにたくさん話をきいてもらおう。そうすれば、これからもきっと大丈夫だって、私はそう思えるだろう。