
エントリーNO.05 tephra(テフラ)
〈会社概要〉 | tephra(テフラ) 鹿児島市照国町5-10(工房) http://www.tephra.info/ |
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〈事業内容〉 | 火山灰ジュエリーの製造・販売 |
鹿児島市在住。鹿児島大学教育学部美術専修で油彩を学び、美術教員を経て、NPO法人桜島ミュージアムに勤める。鹿児島のためになる事業を何かやりたいと考え、大学時代の先輩・小牟禮(こむれ)夏実さんと桜島の火山灰を利用したアクセサリーを開発。「2015かごしまの新特産品コンクール」において、第30回国民文化祭鹿児島県実行委員会会長賞を受賞。
青い空の下、穏やかになぐ紺碧の海に浮かぶようにそびえる桜島。鹿児島のシンボルとして愛される一方、今なお活動を続ける活火山としても知られている。特に、近年は火山活動が活発化し、鹿児島地方気象台の発表によると、2015年は爆発回数737回、噴火回数1252回にも及んだ。
「噴火は私たちにとって日常の出来事です。問題は火山灰。私たち主婦や農家の天敵です。灰が降ると洗濯物が干せないですし、露地物の野菜や果物も傷モノになっちゃう。正直、厄介物です」。そう話す久木田智美さんだが、ある写真をきっかけに火山灰に対する見方が180度変わったという。その写真とは、溶岩を薄くスライスした薄片を、偏光顕微鏡でのぞいた世界。エメラルドグリーンにパープル、ピンク、イエローなど、色とりどりにキラキラと光る溶岩の薄片は思いもよらぬ美しさだった。「溶岩も火山灰も同じ成分。だったら灰の中にも溶岩と同じ幻想的な世界が隠れているのではないか、と衝撃を受けました。と同時に、ほかの多くの人にも薄片の美しい世界を知ってほしいと思ったんです」。
薄片画像にインスピレーションを得た久木田さんは、宝石のようなキラキラした輝きを火山灰を用いて再現できないかと行動を起こす。80kgの桜島の火山灰を県の工業技術センターに持ち込み、サイズ別に3種類の灰に分類してもらう。この灰を、大学時代の先輩であった小牟禮(こむれ)夏実さん(33)に託し、アクセサリーの開発を依頼したという。こうして、火山灰アクセサリーのブランド、tephra(テフラ)は誕生した。
tephraとは、ギリシャ語で「火山噴出物」を意味する。厄介物だった火山灰が、久木田さんと小牟禮さんの手で、美しいアクセサリーへと姿を変えた瞬間だった。
tephraのアクセサリーは、偏光顕微鏡でしか見ることができなかったキラキラと輝く薄片の世界を再現している。まずは、ラメやホログラム、貝殻で薄片の輝きを表現し、レジン(透明樹脂)とともに型に入れて乾燥させる。その後、火山灰を混ぜ込んだ黒色のレジンをさらに型の中に流し込み、乾燥させて固めたら完成だ。黒い火山灰の中で、ラメやホログラム、貝殻が輝き、そのデザインは、まさに偏光顕微鏡で覗いた薄片の世界そのもの。光にかざせば、黒色の中に火山灰の粒子が透けて見え、鹿児島らしさ、桜島らしさも感じさせる唯一無二のアクセサリーに仕上がっている。
「とにかく全てが試行錯誤でした」と話すのは、商品開発を担った小牟禮さん。レジンが固まるまでに丸1日かかるため、完成までには3~4日を要する。薄片画像を再現するための手段、火山灰の粒子がほどよく透けて見える配合量、アクセサリーとして映える形やサイズなど、とにかく失敗の繰り返しだった。2014年の秋に試作を始めてから1年余り、ようやく久木田さん、小牟禮さんの両者が納得ゆくアクセサリーが完成し、2015年7月に販売へとこぎ着けた。
当初は久木田さん自身が働く桜島ビジターセンターでの販売を考えていたという。ところが、縁あって取材を受けた地元フリーペーパーを、鹿児島市維新ふるさと館の女性スタッフが目にし、取り扱いたいと連絡が届いて販路が拡大。さらに、「2015かごしまの新特産品コンクール」に出展すると、第30回国民文化祭鹿児島県実行委員会会長賞を受賞するという栄誉に浴す。またたく間に、行政や企業、テレビ局などから声がかかるように。久木田さんは謙遜しつつもこう話す。「正直ラッキーでした。でも、お客さんがtephraのアクセサリーを見て、これが火山灰なの!って驚いてくれる瞬間は、ヨシッ!ってなりますね。灰に対するネガティブなイメージと、中に秘めた美しさのギャップに気づいてもらえるのが嬉しいです」。
tephraは法人ではない。関わるスタッフは5名、それぞれ別に本業があるか、主婦だ。発起人の久木田さんが、営業や販売、発注、会計、雑務全般を。アクセサリーの制作は、小牟禮さんを中心とした主婦仲間3名が担当する。さらに、デザイン会社に勤める久木田さんのご主人が、ロゴやホームページなどの制作をサポートする。「tephraのことは、仕事の休日、家事の合間など、空いた時間にしかできません。だから、無理せず家族を第一に続けることが大切です」と久木田さん。
今は売れ行きに対して制作が追いついていない状況だというが、それは作業の難しさも関係している。ラメや火山灰を固めるために使うのは特殊なレジン。これは、主剤と硬化剤を混ぜることによる化学反応で固まるのだが、その過程で有毒なガスが発生するのだとか(完全に硬化した後は発生しない)。そのため、換気を行い、ガスマスクを着用しての作業となる。また、肌に触れると、花粉症のように蓄積型のアレルギーとなるため、非常に注意深く取り扱う必要も。レジンを使った作業は、取り扱いに慣れた小牟禮さんが1人で担当するため、思うように制作がはかどらないというわけだ。
久木田さんの目下の目標は、小牟禮さんが信頼して仕事をともにできる仲間を作り、制作の負担を減らすことだという。「制作チームは元々みんなママ友なんです。何かやってみたい、だけど何をすればいいかわからない。能力はあるけど、どう活かしていいかわからない。そんな主婦って多いと思うんです。そういった方々に声をかけて、主婦仲間の輪を広げていけると良いですね」。
取材・撮影・デザイン・コーティング/アトリエあふろ
ライティング/アトリエあふろ(富成深雪、岡本靖正、佐藤福子)、N2(小野剛志)、川島 剛、永田知子
エントリーNo.01
株式会社 江﨑新聞店
エントリーNo.02
キングパン協業組合
エントリーNo.03
GRAN DA ZUR(グランダジュール)
エントリーNo.04
有限会社こんせい
エントリーNo.05
tephra(テフラ)
エントリーNo.06
株式会社 響
エントリーNo.07
NPO 法人みしまですよ
エントリーNo.08
南三陸復興ダコの会 YES 工房
エントリーNo.09
矢沢加工所企業組合
エントリーNo.10
株式会社 八幡
エントリーNo.11
ゆいまーる沖縄 株式会社