主婦やシニアの方の活躍創出部門

エントリーNO.04

豆腐と『きらず揚げ』からつながる仲間の輪
地域の人と共に生きる「共生型の社会」を目指して

<ふるさと名品>

きらず揚げ

<問い合わせ先>

おとうふ市場 大まめ蔵

TEL 0566-52-0140
http://www.otoufu.co.jp/

<会社概要>株式会社おとうふ工房いしかわ
〒444-1304 愛知県高浜市豊田町1-204-21
TEL 0566-54-0330
<事業概要>豆腐をはじめとする大豆加工品のパン、ドーナツ、スイーツの製造販売、飲食店経営

株式会社おとうふ工房いしかわ 代表取締役

石川 伸さん(54)

愛知県高浜市出身。日本大学農獣医学部食品工学科卒業。商社系食品メーカーに5年間勤務したあと実家へ戻り、1991年におとうふ工房いしかわを設立。国産大豆とにがりを使った“日本の昔ながらの豆腐”の製造を開始。2001年には直営店「おとうふ市場大まめ蔵」を開始、現在は30の直営店を展開する。「NPO法人だいずきっず」をはじめ、地域の食育・交流活動にも積極的に取り組んでいる。

“お母さん”のふとした一言から生まれた
『きらず揚げ』が大人気商品に

豆腐屋の朝は早いと聞く。おそらく工場内では、すでにフル稼働で豆腐などを製造しているのだろう。冬の足音が近づく晩秋の朝、愛知県高浜市にあるおとうふ工房いしかわの本社工場へ着くと、場外の駐車場にも豆乳のいい香りが漂っていた。隣接する直営店「おとうふ市場 大まめ蔵」には、午前9時の開店前にも関わらずお客さんの姿がちらほら。ここは同社の旗艦店。工場直送のできたて豆腐はもちろん、湯葉や揚げ、惣菜、スイーツ、パン、ドーナツなど、さまざまな商品ラインナップで、連日数多くの客で賑わいを見せる。

おとうふ工房いしかわの前身は明治時代から続く石川豆腐店。石川伸さんはその4代目として家業を受け継いだ。「4代目といっても、両親がふたりだけで営むいわゆる町の豆腐屋でした」。折しもバブル崩壊直後、世の中は安値競争の真っ只中。スーパーでは豆腐一丁が50円は当たり前。一方、石川さんの豆腐は一丁120円だ。小さな“町の豆腐屋”に到底勝ち目はない。そんなとき、石川家にある変化が起こった。長男が誕生したのだ。ある日、離乳食として豆腐を食べる息子の姿を見て石川さんはふと思ったという。「本当に自分の子どもに食べさせたい豆腐を作ろう」と。

そんな想いから生まれた豆腐が「究極のきぬ」と「至高のもめん」。国産大豆とにがりを使った昔ながらの豆腐で、発売当初の価格は一般的な豆腐の倍以上という一丁200円。「一番最初に評価してくださったのは生協のお母さんたち」と話すとおり、デフレ時代を逆行する高級豆腐ながら、口コミでそのおいしさが評判を呼び、果たして1日2万丁も売れる大ヒット商品に。発売から20年経った現在でも、会社の屋台骨を支える主力商品のひとつだ。

さらにもうひとつの大ヒット商品『きらず揚げ』は、「最近固いお菓子がなくて…」という生協のお母さんが発した何気ないひと言から誕生した。国産大豆のおからと国産小麦を原料に、菜種の一番搾り油で揚げた固い菓子は、「固くっていいじゃないの」とお母さんたちの評判は上々。ビニール袋にシールを貼っただけの状態で生協で売り出したところ、口コミで話題が話題を呼び、またたくまに生協の人気商品に。以来20年以上も愛され続けるロングセラー商品なのだ。

「あるとき千葉から電話がかかってきたんですよ。『きらず揚げ』を売って欲しいと。その頃は千葉では販売していなかったんですけど」と石川さん。聞けば、知り合いにもらっておいしかったから買いたい、とのことだった。「でね、箱で買いたいっていうので送ったんです。するとしばらくしてまた別の方から電話がかかってきて、なんとかさんから聞いたんだけど、私も『きらず揚げ』を買いたいって」。そうこうしているうちに今度は千葉の生協からも電話がかかってきて、そこでも販売する運びに。それが皮切りとなり、現在はほぼ全国の生協で『きらず揚げ』が販売されている。「女性の口コミってすごいなって思いましたよ」と、石川さんは当時を振り返る。

  • きらず揚げの「きらず」とは、おからの古語。地元の菓子メーカー、井桁屋製菓との共同開発により誕生した

  • きらず揚げはバリエーションも豊富。しおやしょうゆ、黒ごまなどの定番のほか、季節限定商品もラインアップする

  • 本社工場に隣接する直営店、おとうふ市場 大まめ蔵。店頭で接客するスタッフの多くはパート勤務の主婦の方々だ

女性の口コミは最強のプロモーション
働きやすい環境の整備がファンづくりにつながる

町の豆腐屋からスタートしたおとうふ工房いしかわは、今では年商50億円というトップクラスの豆腐メーカーに成長。直営店は東海圏を中心に30店舗を数える。従業員数は500名余り、そのうちパートで働く方が8割を締める。そのほとんどが女性やシニア層だ。もともと食品産業というのは女性との親和性が高い業種だが、女性を積極的に雇用するのはそのためばかりではない。

「先ほど申し上げたように、口コミの影響力は計り知れません。そして、口コミ文化の担い手は男性ではなく女性です。ですから、多くの女性たちに我々のファンになってもらえれば、強力なプロモーションにつながります。今までは『きらず揚げ』のお客様だった主婦の方に、働きやすい環境を提供することで一緒に働く仲間になってもらう。ファンが身内につく。それって非常に強いとおもいませんか」と石川さんは話す。

石川さんは、女性にファンになってもらうため、ファンであり続けてもらうため、女性の目線に立って考える。主婦が働きやすいように就労時間を調整したり、女性でも運びやすいように梱包サイズを小さくしたり、業務内容のフィッティングを考えたり。もちろんお金=時給も大切だが、「皆さん、ある一定の期間働いているとお金よりも楽しい職場で働きたい、自分を認知してくれる場所が居心地がいいという気持ちにシフトしていくようです。そういう職場環境を提供することは、結果として長く働いてくれて、ファンであり続けてくれるんですよ」。

おとうふ工房いしかわの移動販売「くるくる豆蔵」の販売スタッフ、都築明美さんもファンのひとりだ。この職について丸7年、今は仕事が楽しくて仕方がないという。「当初は売上を伸ばそうと必死で、そんな自分が嫌になったこともありました。でも、今はお客様に会えること自体が楽しいんです。週一回お客様の元を訪ねるんですが、みなさん笑顔で迎えてくれます。それが嬉しくって」と都築さんはにっこり。実際に移動販売に同行してみると、都築さんもお客さんもよく喋ること、よく笑うこと。石川さん曰く「彼女にとってお客様じゃないんですよ、友達であったり、仲間であったり、もしかしたら家族と言ってもいいかも知れません」。都築さんらの活躍によって、仲間の輪が社内から社会へどんどん広まっているようだ。

  • 移動販売車では約100アイテムを扱っている。商品のセレクトは、顧客の好みをよく知る販売スタッフに任されている

  • 「高齢者の方とかなかなか買い物に行けないじゃないですか。そういった方々に喜んでもらえることも、この仕事の魅力」と都築さん

  • 都築さんは三好、豊田、刈谷、知立の4市を担当し、各お宅を週に1回訪ねると、ついついおしゃべりに花が咲く

地域に根ざした活動を通して
「全ての人を幸せにしたい」

おとうふ工房いしかわでは、地域社会にコミットしたさまざまな活動にも取り組んでいる。そのひとつが「授産所高浜安立賃金倍増プロジェクト」だ。授産所は障がいのある方々の就労・自立を支援する施設。おとうふ工房いしかわの商品「チョコきらず」のチョコレートコーティングとパッケージングの工程は、すべてこの授産所で行われている。

授産所の方に聞いたところ、チョコレートをコーティングする機械自体も石川さんが施設に提供したものだとか。今ではチョコきらず以外にも、「ぱりまるしょこら」をはじめとした授産所オリジナルのチョコレート商品を製造販売し、授産所の売上アップに役立っているという。石川さんは多くは語らない。ただ、「なかには否定する声もあります。でも、そんなことは気にしません。例えば、ある人にとってウチの糠漬けがおいしくなくても、自分の家族や仲間がおいしいって言ってくれればそれでいいじゃないですか」と。

石川さんは言う。「20世紀は狩猟型、つまり相手と対峙して新しい存在意義、価値観を誇示するような社会でした。一方、21世紀は共生型の社会が求められると思います。多くを取り過ぎない社会、全部自分のものにしない社会、お互いに認めあう社会。そんな風に僕は勝手に考えています。ちょっとヘンですかね?」と。加えて、「寝る時間を除けば、会社にいる時間って家族と一緒にいる時間よりも長い場合もありますよね。だったら、職場でも楽しい時間を過ごせるようにした方が絶対にいい。仕事をしているといろんなことがありますけど、乗り越えるためにはお互いに仲良くなることが一番。そうすれば、楽しいことは2倍になるし、悲しいことは半分にできる。要するに家族のような関係ですね。そんな関係が家にあって、会社にもあったらどんなに楽しいことか。もっと言えば、社会が家族だったらもっとみんな幸せですよね」とも。

「全ての人を幸せにしたい」。おとうふ工房いしかわの社是だ。家業を受け継いで四半世紀を過ぎてなお、さらなるステージへと向かう石川さんの歩みは、まだまだ止まりそうにない。

  • チョコきらずを製造する授産所高浜安立の工房。ふたり1組となり、きらず揚げにチョコレートをコーティングしていく

  • もともと豆腐の製造だけだったが、現在ではさまざまな派生商品も手掛けている

企画・取材・撮影・デザイン・コーディング/アトリエあふろ、執筆/エヌツー(豊川大・小野剛志)

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